かつてこんな見晴らしの良い場所に建つ
古いアパートがあった。
坂の町を彷徨った挙句たどり着いたそこは、
いろんな意味で世界の終わりのような景色に見えた。

ほとんどのポストがガムテープで塞がれている中、
わずかに残った端の部屋には、誰から来たのか
わからない郵便物がくちゃくちゃに詰め込まれていた。

そこにまだ人はいたのか、
それとも既に何処かに越したのにポストを塞ぎ忘れたのか、
今となってはわからない。
しかし、その場所はそれから作品の中に繰り返し登場することと
なった。

丘の上のアパートが取り壊されてしまって
もう5年以上は経つのだろう。
不思議とその時に見た空と空気の記憶だけは、
未だ筆で辿れるところにある。 

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