発作的に走り出したのは、ほんとうに知らない町だった。
飛行機がまだ低くを飛び、町中いたるところに自衛官がちゃりんこで走り回っている、
見たことのない地域。

戦後そのままのような古くて天井の低そうな集合住宅と、外車が何台も並ぶパレス
のような一戸建てとが無節操なまでに乱立するエリア。
なんだか町の正体がよくわからないままに一時間近く彷徨い続けて
汗だくになり、ようやく車に戻って帰りかけた時に見かけた景色がこれだった。

ふと後ろを見ると、買い物帰りの若い兄ちゃんも、子供の手を引いて帰る
おばちゃんも、みんな空をぽかんと見ていた。
自分以外に空を見上げている人がいる。
そんな光景は、それが日常茶飯事な芸大以外では本当に
珍しいことだった。
わけもなく、少し嬉しくなった。

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