春の陽気の中、再び路地へ。
思えば教職以外でこうして一人写生するのはいつ以来か。
追われる感や気負いとは無縁のところで、
ただ遠くのトランペットと鳥の声を聞きながら
黙々と筆を動かす。
不思議といつも後半追い込みでかける「戦闘BGM」なるものも
必要なかった。
本来はこういうものなのだろう。
昼下がり、すぐそばの門が開いて、
感じのよさげなおばあさんがこちらにきて
話しかけてこられた。
なんても薬学をされていた時分に、薬として使えるか否か覚えるために
植物を描きまくって以降、絵を描き続けているという。
ただ世間話をしたいだけの「通りがかりさん」とは明らかに違った空気。
そして完成したら記念に写真を撮りたいので、うちにいらしてと
言われその場を去られた。
夕刻、ほんとにいいのかいなとインターホンを鳴らすと、
ご主人が出てこられ中へ招かれた。
このような展開はまったくもって初めてなので
現実感がないまま、初対面のご夫婦のリビングに通される。
あたり一面に絵画が飾られていた。
もっとクラシックな絵を描かれるのかと思ったら、
テクスチャ作った上でかなりかっこいい色使いと、そして
キュビズム。若者顔負けにかっこいい。
西日が傾く中、まもなく咲き始める桜を見ながら
3人で珈琲を飲みながらの不思議で素敵な時間だった。
「こんな(身近な場所が)ところが絵になるなんて」と
しきりに言ってくださっているのが、何より嬉しかった。
写生をしていて一番嬉しいのは、きっとこういう感動を
覚えていただける時なのだ。
きっと徒歩3分の圏内にだって、はっとする景色は
あるのだから。
課題は山積でまだまだ思っているものには遠すぎるけれど、
とりあえず近年の写生の中では一番時間をかけた(おそらく8時間強)作品。