雲が早く流れる。
建物すれすれかと思われた厚い雲は瞬く間にどこかへ連れ去られてしまい、
なんだか全てがさらけ出された気分。
でもそれはそれで心地よい。
何年か前、私はよく職場すぐ近くの丘にのぼって、湖を眺めながら
ひとときを過ごしていた。
なんだかそのまますぐに仕事場に入る心持ちになれなかったからなのだろうと
今は思う。
遠く対岸を見渡してみたり、湖上をただよう小さな船を眺めたりしながら
パンをかじったりしていた。
しかしそれもほどなく立ち入り禁止のフェンスが張られ、
そこから数年するとその丘は徐々に切り開かれ工事の車両が
ひしめくようになった。
今日ふと目をやると、ついには何もなかった雑草の草むらを切り裂いて
アスファルトの道路が丘のてっぺん向かってのびていた。
こうしてもう二度と眺めることのできない景色というものが、
人生でひとつまたひとつと増えてゆく。
そしてそのいくつかは、
幸いにも小さなキャンバスの中に閉じ込めることができた。
ここから数年先、
ここでパンをかじるやつはいるだろうか。