今宵、千里の片隅で。

日本最古のニュータウンの片隅で、 画家・待井健一は今日もちくちくと制作しています。

湖岸を渡る風。

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雲が早く流れる。
建物すれすれかと思われた厚い雲は瞬く間にどこかへ連れ去られてしまい、
なんだか全てがさらけ出された気分。
でもそれはそれで心地よい。

何年か前、私はよく職場すぐ近くの丘にのぼって、湖を眺めながら
ひとときを過ごしていた。
なんだかそのまますぐに仕事場に入る心持ちになれなかったからなのだろうと
今は思う。
遠く対岸を見渡してみたり、湖上をただよう小さな船を眺めたりしながら
パンをかじったりしていた。

しかしそれもほどなく立ち入り禁止のフェンスが張られ、
そこから数年するとその丘は徐々に切り開かれ工事の車両が
ひしめくようになった。

今日ふと目をやると、ついには何もなかった雑草の草むらを切り裂いて
アスファルトの道路が丘のてっぺん向かってのびていた。

こうしてもう二度と眺めることのできない景色というものが、
人生でひとつまたひとつと増えてゆく。
そしてそのいくつかは、
幸いにも小さなキャンバスの中に閉じ込めることができた。

ここから数年先、
ここでパンをかじるやつはいるだろうか。

つかの間、雨だれを聴く。

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仕事から仕事へのほんの合間。
曲がり角が手招きしているような気がして、一筋反れて曲がってみる。

雨の景色を描いてみたいと、心から思わせるようなひととき。
近くの木工屋では、声もなくただ木を切る音だけが路地に響いていた。

歩いている人もいない。
ただ古い家屋に灯っている台所のあかりだけが、
人の気配を感じさせるような、
そんな静かな時間だった。

普段はカーテンを閉めて、両スピーカーから
雨の音を流しながらの作業だが、
今日ばかりはそれもいらない。
追い詰められているのに、
この雨の中で作業できるというだけで
こんなにも幸せな気持ちになれるなんて驚きだ。

マジックアワー。

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時折ふと目に入った光景に、涙が出そうになることがある。
仕事終わりの解放感とか後悔とか差し迫った締め切りとか、
そういったものがごっちゃ混ぜになって昂ぶっている時に、
ふと窓から入る風と共に鮮烈なオレンジが飛び込んできた。

一瞬何もかもが止まったような気がした。
音が聞こえていた記憶すらない。
ある映画監督の、
「どんな時でも、仕事の行き帰りの景色は僕を元気付けてくれた」
という言葉が、いまさらながらに甦る。

夕日の落ちてゆく向こうというのは、
どこまで追いかけていっても辿りつけない、
そして気がつけばいつもの日常に紛れ込んでいる、
きっとそんな場所なのだ。

今回の作品群は、いつにも増して
夕焼けの絵が多い。
作品を描き始めた当初はほとんどモノクロに近いブルーから
スタートしたので、
いつか自分の変遷を辿ってみると、さぞかし面白いのではないかと思った。
きっと少しずつ色づいて鮮やかになり、そしてまた少しずつセピアに
近づいてゆく。
今はちょうどそんなところ。

Inner Light

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今も同じ時刻、
きっと睡眠不足と締め切りと体調不良にまみれて
死にそうになりながらも
描くことを貫こうとしている戦友がいる。

それに比べたらはるかにはるかに恵まれた環境になりながら、
私はあと薄皮一枚で撃沈しそうな水際まで
追い詰められてしまっている。

「これを乗り越えられたら、少しは作家と胸を張れるだろうか」
「自信がつくだろうか」
「どこかに居場所が見つかるだろうか」
そんなことをもう延々と繰り返し、
それでもそのうちただの一つも、いまだに手に入らない。
そもそもそんな邪な思いを抱くからだろうか。
それとも試練自体のハードルが低いからだろうか。

できるだけのことはやった。
やっているつもりではいた。
しかし今描いている作品全て諸共全然ダメなのでは
ないかという恐怖に襲われる。
そしてそれを払拭するには、
単純にただ描き続けるしか、もう道はない。

「どこをそうすればよくなるのか」
そのことだけを、
今はそのことだけをただ単純に突き詰めていたい。

LOST.

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 作品を郵送した帰りに、なんとか40分の散歩時間を確保。
しばらく職場と自宅をループしていたせいで、空気がまとわりついて
窒息しそうになっていたところだ。
時間がないので、買い物ついでの駐車場から突如歩き出して
思うがままの方角へと分け入った。

日暮が近い団地の合間、
子供たちの声が壁面に響く。
ほんとにすぐ近くだというのに、
車道から中に入り込んでしまえば、
ある程度まで分け入ったところで見事何処だかわからなくなる。

見たことのない景色が現れた途端、何か解放されたような気がした。
日常からぷつんと切り離された瞬間が一日のどこかにでもあると、
心底ほっとする。

タイトルは何にしよう。
あと何日で何枚仕上げなければならないだろう。
歩いていてもそんな考えがふと頭をもたげてしまうのは
もう仕方がない。
それでも、団地から漂う夕餉の匂いや学校帰りの子供たち
に触れると、
こんなのも描いてみたいな、なんてお気楽に考えてしまうのだ。

大部分の作品が既に旅立ち、少し入るのが楽になったアトリエで、
最後の闘いが待っている。

今夜も終わらない。

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リアルにこういう状態。
右隅に見えるのは使い古した筆の山。
以前紙に描いていた時は「筆って買い換えるもんかいな」と
思っていたが、
下地処理をしたキャンバスを使うようになってから
目に見えてどんどんダメになるようになった。
特にザラザラしたタイプのものを使うと
一瞬でオシャカになる。

特にダメにするのが早いのは、私が
まるで色鉛筆を使うかのように筆を使うからだと思う。
なすりつけるようなハッチングが多いので、
しばらくするとバサバサの箒のほうになってしまうのだ。

目の前でシクリッドのペアがひろひろと泳いでいる。
こればかりは、
本当にこればかりは何年経っても飽きない。
アトリエに生き物がいるのはすばらしいものだ。

そしてけものアレルギーでもあり、
さらに一人が大好きの私にとって、
やいのやいのと寄ってこない同居人というのは
実にすばらしいのだ。
おそらく古代魚のほうなど、3年経った今でも
飼い主を微塵も認識していないようだ。
地球上では遥か遥か先輩なのだから
仕方ないと思うべきか。

珠玉。

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ようやく手に入れた。
今までの人生で二番目に好きな映画、
DVDデラックス版。

大林監督の大きな節目にあたる作品と言われながら、
レンタルにもあがらずほとんど話題にも出てこない。

入手してまず驚いたのは画質だった。
大学時代に惚れて以来、ずっとビデオテープの3倍録画のものを
延々と繰り返し観てきたので、
作品がフルカラーであることをいつしか忘れていたのだ。
自分の中では、擦り切れ色あせたフィルムのほうが自然になって
しまっていて、
それが物語の舞台である古い坂の町に
たまらなくよく似合っていたのである。

「俺たちってなんかこう・・・哀しいっすね」。
主人公が海を見ながら呟く台詞が、
私はなんだかたまらなく好きだ。
思えば見知らぬ町をさまよう愉しみの根源は、
間違いなくこの映画にある。

訪れる人間にとっては旅先でも、
そこに住む人たちにとっては普通の日常。
その何か傍観者のような、その町のドラマに
入っていけない人間の哀愁のようなものが、
この作品にはおそろしく巧みに描かれている。

思えばここ数日運動はおろか習慣であった
路地裏散歩すらできていない。
このあまりにも追い詰められた状況が
作品に良い方向に働くことを、
今は祈るしかない。
そしてこの映画を手に入れたことは、
土壇場の土壇場にきて最後の加速装置となってくれるに
違いない。

深夜のアトリエ。

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今回一番の難物に、ようやく糸口が見えた。

たった40センチ四方にも満たない画面の中なのに、
自分にとっての正解を探し出すのは
なんと難しいことか。
来る日も来る日もああでもないこうでもないと眺め続けて
手を入れ続けたが、
解決する時は一瞬。ものの10分程度のひらめきだ。

某将棋漫画を思い出して、思わずほくそ笑んでしまう。
絵を描くのだって、深い海に潜るのに似ているのだ。
今のところは、まだ深く潜った挙句完全な徒労に終わることは
ない。それだけが救いかもしれない。

今夜はスピーカーから雨音を流さなくてもよいのが
素敵だ。
やはり雨音は天然物に勝るものなし。

カオス。

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クロッキー授業でいきなり出たお題がこれ。
何故に名指し。
しかもこれは何を意味するのか??
キャラなのかメカなのか、それとも使徒なのか?

完全に傍観するつもりでいたのだが、
全くもって学生さんというのは予想がつかない。

楽しんで描けているのなら何よりなのだが。

しかしおそろしいのは、
私たちの世代から彼らの世代まで、
絶対に変わらないお題は「ジョジョ」なのであった。

乱戦。

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ここで引き下がるか粘るか。
毎度ながら頂上付近の険しいこと。

しかし醍醐味の多くもまたこの先にあることを、
幾度となく経験するうちわかるようにはなってきた。
這うような泥臭いやり方でもスピードでも、少しずつでも近づけるなら
それでいい。

今回最もぐるぐる回っているBGMは
「ガンダムUC」のサントラ。
毎回何か見つけては最後の加速装置にしているが、
今回もすこぶる良い感じ。
もう戦わずにはいられない。
プロフィール

待井健一

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